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東京高等裁判所 平成4年(ラ)849号 決定 1992年12月28日

抗告人

和光リバティーホーム株式会社

右代表者代表取締役

菅原敏彦

右代理人弁護士

伊関正孝

小林和彦

被抗告人

株式会社住友銀行

右代表者代表取締役

峯岡弘

右代理人弁護士

須藤英章

岸和正

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。被抗告人の抗告人に対する申立てを却下する。」との裁判を求めるというものであり、抗告の理由は、別紙抗告理由書記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  被抗告人は、渡久建設株式会社(以下「渡久建設」という。)に対する銀行取引等の債権を担保するため、平成元年六月七日、渡久建設所有にかかる原決定別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に根抵当権を設定していたものであるが、平成四年七月一六日、東京地方裁判所に対し、本件土地について不動産競売の申立てをなし(東京地方裁判所平成四年(ケ)第二二一五号事件。以下「基本事件」という。)、同月一七日、同裁判所において不動産競売開始決定がなされ、同日付けで差押の登記が経由された。

(二)  右差押の当時、本件土地は、使用期間平成二年九月一日から平成四年八月三一日までの約定で渡久建設から賃借した株式会社長谷工コーポレーション(以下「長谷工コーポレーション」という。)が、駐車場及び資材置場等として使用して占有していた。

(三)  ところが、平成四年八月一九日、本件土地につき同年七月一六日受付第二一四〇四号による賃借権設定仮登記を経由する光和総業株式会社(以下「光和総業」という。)が、渡久建設から本件土地を賃借したと主張し、長谷工コーポレーションに対して本件土地の明渡しを要求し、同月二一日には、長谷工コーポレーションの了承を得ることなく、抗告人が、本件土地の一画に基礎ブロックを設置して原決定別紙建物目録記載の仮設建物二棟の建築を開始するとともに、同月二四日ころからは、長谷工コーポレーションの従業員の本件土地への立ち入りを禁止し、本件土地の一画に土砂の搬入を開始し、右各建物も同月二七日ころまでには完成させた。

(四)  被抗告人は、同年九月八日、原裁判所に対し、渡久建設、光和総業、ユナイテッド株式会社及び抗告人を相手方として、前記仮設建物及び搬入土砂の撤去、本件土地からの退去並びに本件土地の占有移転禁止等を求める民事執行法一八八条、五五条一項に基づく不動産の売却のための保全処分を申請したところ、原裁判所は、同月一六日、右申請をいずれも認容する原決定をした。

(五)  その後も、抗告人は、本件土地の周囲を現場監督らに監視させながら、本件土地に対する土砂の搬入を続け、同年一〇月下旬ころには、本件土地全体にわたって土砂が搬入堆積され、その搬出工事には約一億九〇〇〇万円を要する程度の量に達している。

(六)  光和総業は、渡久建設に対して賃金債権を有することを主張しているものであり、その主張する賃借権は、平成四年七月二日設定、同月一六日仮登記に係る、借賃一か月一平方メートル当たり金一〇〇円、譲渡、転賃ができるとの特約が付いたものであり、抗告人は、本件土地の占有権原について、同年七月二二日、光和総業が渡久建設に対して有する右賃借権を、渡久建設の事前の承諾を得た上で、代金五〇〇〇万円をもって譲り受けたと主張している。

(七)  しかしながら、渡久建設は、光和総業との金銭賃借等の取引や右賃借権設定について全くあづかり知らず、福山孝喜から金一〇〇〇万円を借り受けた際の書類を冒用されて右賃借権の設定仮登記をされたものであり、平成四年八月一二日に光和総業に対し、右賃借権の無効を主張し、その仮登記の抹消登記手続を請求している。

2  そこで、抗告人の抗告理由について検討すると、抗告人は、まず、民事執行法一八八条、五五条一項に基づく不動産の売却のための保全処分は、不動産競売事件の債務者又は所有者に対してのみ発令することができるものであるから、本件土地に関する基本事件の債務者又は所有者ではない抗告人はその発令の相手方となるものではなく、また、仮に、右保全処分の相手方として債務者又は所有者の占有補助者も含まれると解するとしても、抗告人は、光和総業から譲り受けた適法な賃借権に基づいて占有しているものであるので、渡久建設の占有補助者にも該当しないから、抗告人に対して保全処分を発令した原決定は違法である旨主張する。

ところで、民事執行法一八八条、五五条一項に基づく不動産の売却のための保全処分の相手方となりうるのは、債務者又は所有者であり、右債務者又は所有者の中には、これらの者の占有補助者や占有機関も含まれるものと解すべきである。(なお、占有補助者の占有は、占有主体たる債務者又は所有者に対する保全命令によって排除することができるから、これらの者が独立して保全処分の相手方とはならないと解されるが、占有補助者か否かの判断には微妙なものがあり、執行裁判所が占有補助者として判断した者でも、執行官は独立の占有があると認定して、債務者又は所有者に対する保全処分のみでは執行不能とするような事態が生ずることも予想されるから、簡易迅速な執行を要する保全処分にあっては、占有補助者に対しても保全処分を発令することができるものと解すべきである。)

更に、不動産売却処分ひいては民事執行手続の円滑化及び適性化を確保することを目的としている右法条の法意に鑑みれば、専ら執行の妨害や占有による不当な利益を得る目的で差押後に不動産の占有を取得した者で、債務者又は所有者からの占有権原の取得を主張するが、債務者又は所有者に主張しうる正当な権原を有しない者は、債権者又は抵当権者等に対する関係では、占有補助者を自称する者ないしは占有侵奪者にすぎず、債務者又は所有者あるいはそれらの占有補助者でさえも売却のための保全処分の相手方となる以上、当然に右の占有補助者を自称する者ないしは占有侵奪者も同保全処分の相手方になるものと解すべきである。(なお、民事執行法五五条の立法時の法案に、保全処分の相手方として『買受人に対抗できない不動産占有者』が含まれていたのを、ことさらに除外して立法した経緯があるが、右は、債務者以外の占有者等第三者を保全処分の相手方とすることを全く否定したものでなく、同法条の法解釈、運用に委ねたものにすぎず、債務者又は所有者にも占有権原を主張することができないような不法な占有者を民事執行において保護する趣旨に出たものではない。)

これを本件について見ると、前記認定事実によれば、抗告人は、基本事件の差押の効力発生後に新たにその占有を取得したものであり、抵当権者(及び買受人)に対してその占有権原を対抗することができないことはもとより、所有者(債務者)に対してもその占有権原を主張することができない占有者であるところ、その占有権原について、所有者である渡久建設の承諾に基づく光和総業の賃借権の譲受けを主張するものである上、抗告人の主張する光和総業の賃借権は、債権の回収等を目的としたものであり、執行手続において保護されるものではなく、しかも、本件土地の占有の取得時期及び態様に照らして考慮すれば、抗告人の行為は、専ら民事執行の妨害及びこれに伴う不当な利益の取得のみを目的としたものというべきである。

したがって、抗告人は、所有者渡久建設の占有補助者を自称する者ないしは占有侵奪者として、保全処分の相手方となりうる者というべきである。

3  次に、抗告人は、従前と変化のない形態で本件土地を使用しているから、本件土地の価格を著しく減少させる行為には該当しない旨主張する。

しかしながら、前記認定事実によれば、抗告人が搬入した土砂の排出工事には、約一億九〇〇〇万円の費用を要するものであり、その復旧費用や本件仮設建物の撤去費用は、第一次的には買主の負担になるものであるから、本件土地の最低売却価額の決定に当たって価格の減価要因として考慮せざるを得ず、本件において、本件土地の価格の著しい減少を来していることは明らかである。

4  更に、抗告人は、原裁判所が、原決定の主文2項において、執行官に対し、原決定の主文1(4)項の内容を公示するように命じたことは、債務者又は所有者でない第三者に対する保全処分を発令したものであるから違法であるとか、保全処分の目的ないし必要性の範囲を超えるものとして不適法である旨主張する。

しかしながら、執行裁判所は、不動産の価値を保全するという目的のため、(執行官保管命令については、その要件につき民事執行法五五条二項による制限があるが)必要かつ相当な命令を発することができるのであって、執行官による本件公示の命令も、その必要かつ相当な範囲に属する限り、これが許されるものと解すべきである。これを本件について見ると、抗告人の本件土地占有の取得及びその後の継続の態様等に照らして考慮すれば、その占有移転や占有名義の変更による執行妨害の恐れが存在することが認められるから、右公示の命令は適法というべきである。

5  その他、一件記録を精査するも、抗告人に対する原決定を取り消すに足りる違法の点は見当たらない。

三よって、本件執行抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鬼頭季郎 裁判官渡邉等 裁判官柴田寛之)

別紙抗告理由書

抗告の理由

第一 法令違反

一 抗告人を相手方とする保全処分の違法性

1 本決定は、民事執行法第五五条一項、同一八八条に基づく売却のための保全処分として認められたものである。

2 いうまでもなく、同法五五条一項では「債務者」(任意競売では「債務者または所有者」)が「不動産の価格を著しく減少する行為をするとき……」に「債務者」に対して一定の行為を禁止しまたは一定の行為を命ずることができる。と規定されている。すなわち、条文上保全処分の相手方としては「債務者」のみを予定しているのである。

したがって、「債務者または所有者」でない抗告人を相手方として保全処分を認めた原決定は、民事執行法第五五条一項、同一八八条に違反し、取り消しを免れない。

3 このことは、昭和五三年四月二四日の第八四回通常国会で提出された政府提出の民事執行法案第五五条において「債務者又は不動産の占有者が、不動産の価格を著しく減少する行為をするとき、又はそのおそれがある行為をするときは、……」として、「債務者」以外の「占有者」に対しても保全処分を認めていたものが、最終的には「占有者」を削除した立法の経緯からも肯首されるところである。

4 仮に、「債務者」には占有補助者が含まれると解しうるとしても、後述のとおり、抗告人は、債務者である渡久建設株式会社の占有補助者ではない。

(1) すなわち、抗告人は光和総業株式会社より、平成四年七月二二日、同社の渡久建設株式会社に対する賃借権を、渡久建設株式会社の事前の承諾を得た上で、代金五〇〇〇万円をもって譲り受けたものである。

(2) また、光和総業株式会社は同年七月二日、渡久建設株式会社との間で対象土地に関して賃貸借契約を交わし、同月一六日付にて賃借権設定仮登記を了しているものである。そして、相手方の差押登記は翌一七日付けでなされている。

(3) このように、抗告人は、渡久建設株式会社と光和総業株式会社との間の賃貸借契約を信頼して本件土地につき賃借権の譲渡を受けたものであり、抗告人はこの賃借権を占有権原として本件土地を占有しているのであり、債務者である渡久建設株式会社の占有補助者ではない。

二 執行官に公示を命じた点について

1 原決定は、売却処分の所有者に対する保全処分がなされた後に第三者がこれを占有するなどに至った場合、その第三者に対する保全処分を発令するためには、その第三者が保全処分の存在を知っていたか否かが重要な意味を有することになるので、公示を命ずる法的な必要性があるとする。

2 しかし、前述のとおり、民事執行法第五五条一項は「債務者」を相手方としての保全処分を予定しているのであり、「第三者」を相手方とすることを予定しているものではない。

したがって「第三者」を予定して公示を命じた原決定は、必要のないことを命じたものであり、違法である。

3 さらに、不作為命令の効果は仮処分命令の告知によって完全に生じるのであって、執行官がその執行に関与する余地はなく公示のみを執行官に命ずることは、仮処分の目的ないし必要性の限度を越えるものであり、このような仮処分の効力の発生、存続と無関係な公示を執行官に命ずることは執行官の職分を越えることを命ずるもので不適法なものである。

4 仮に原決定のいうように、売却のための保全処分の特殊性があるとしても、それは、例えば債務者に対する売却の仮処分が先行し、その仮処分を実効あらしめるために公示するというような場合に限定すべきである。

本件のように、債務者と同時に第三者である抗告人に対して公示を命じても、少なくとも抗告人は債務者への保全処分がなされていることなど知らなかったのであるから、原決定の言うような効果は抗告人には期待しえないからである。

第二 不動産の価格を著しく減少する行為との点について

1 売却のための保全処分は、いうまでもなく差押債権者が差押えによって把握した不動産の担保価値を維持し、売却によって債権者の債権の満足を図ることを目的とするものである。

したがって、債務者が当該不動産を通常の用法にて使用収益することはなんら差し支えない。

2 本件土地は、抗告人が占有する以前から駐車場及び資材・土砂の置場として使用されており、抗告人の残土置場としての使用は、以前と変わらない形態での使用方法である。

ただ、抗告人においては、当該土地の一部に、所有者である渡久建設株式会社の承諾を得て事務所を建てたが、それも建坪約一五坪と六坪の簡易なプレハブ事務所である。プレハブ建物は、現場に土砂搬入・搬出のための車両が多数出入りすることから、作業現場の管理・監督のために建てたものであり、執行を妨害するためのものではない。

以上のとおりであり、いずれにしても原決定は取り消しを免れないものである。

以上

疎明資料

疎乙第一号証 土地賃貸借契約書

疎乙第二号証 承諾書原本証明書

疎乙第三号証 賃借権譲渡契約証書

疎乙第四号証 事情説明書

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